いつしか無意識のうちに無沙汰になってしまったバンドは誰にでもあるだろう。
私にもある。
その代表がカナダのHAREM SCAREMだ。
HAREM SCAREM
このバンドを初めて知ったのは93年のことだ。
メロディアスでWINGERテイストを持ったバンドとして紹介されていて、興味をもったのだ。
その文言を読んで私は買ったし、それなりに堪能させてもらった作品である。
その時のアルバムが『MOOD SWINGS』である。
“No Justice”がクリップになり、それもみて興奮した。
このアルバムが本邦でのデビュー作であったが、このセールが引き金になり、91年に本国カナダでデビューしていた作品である『HAREM SCAREM』もリリースされることになったのだ。
『HAREM SCAREM』
これも興味が出て買って聴いたが、これのほうがかなりいい出来であることを発見したのだ。
聴きこんだ回数はこちらの方が断然多い。
感動したのは“Slowly Slipping Away”と“Honestley”である。
ともにバラードであるが、この2つを聴くだけに買ってもいいくらいの素晴らしい出来なのだ。
“Slowly Slipping Away”のクリップを、クリップ集で観たが感動的そのものである。
やはり91年の出来というのがわかるくらいにメロディアスだし、好景気のさなかにいたHRシーンの雰囲気を思い起させてくれる最高の曲であり、クリップだ。
こういったバラードのみならず、“With A Little Love”や“Hard To Love”といったアップテンポの曲も申し分ない。
“With A Little Love”
これだけいい曲が満載されていれば、だれもが愛聴盤になるはずだ。
こんないいアルバムがなぜすぐに本邦でリリースされなかったか不思議なくらいだ。
※参考記事
しかし、これに味をしめて、このバンドののちにリリースされたアルバムを聴くも、あまり感動できずに終わった。
95年の『VOICE OF REASON』から98年の『BIG BANG THEORY』までを買って聴いたが、シングルカットされる曲はそれなりにいい曲だったが、佳曲がアルバムに占める割合が小さいのだ。
これでは、手離したくなるのは必然だし、当然中古盤屋に売ってしまったのだ。
ベストアルバムだけ持っていればいい、ということになってしまうのだ。
ゆえに、このバンドのアルバムで今も所有しているのは、1stと2ndとベストアルバムだけということになってしまっている。
バンド名をRUBBERに変えてアルバムを出し、それから再度HAREM SCAREMに戻して出たアルバムを聴くも、「それなりにいいんだけどねえ」ということで終わってしまったのだ。
やはり、私にとってのHAREM SCAREMは、SCORPIONSと一緒なのだ。
1枚のアルバムが非常に良くて、それ以外は結局「いい曲なんだけどねえ…」で終わってしまう。
その1枚のアルバムとは90年発表の『CRAZY WORLD』だ。
SCORPIONS
このアルバムは、最初から最後まで佳曲しか入っていない最高のアルバムなのだ。
しかし、それ以外のアルバムはどれも佳曲が少なすぎるのだ。
このようなことを書いていくと、どうしても90年代中盤のHRの不況期を思い起さざるを得ないのだ。 その原因はグランジの台頭と、HRバンドの作曲能力の減退だ。
重くミドルやスローの曲ばかりが多いこのジャンルは、ヘヴィメタルにはフィットするけれどもHRには不向きなのだ。
しかし、それがメインの流行ゆえに、どのバンドもこの要素を自分の音楽に取り入れたが、まるでフィットしないことが判明したのだ。
フィットしなければ、佳曲が出来上がるはずもない。
佳曲が少なければ大きなセールを伸ばすこともできないままだったのだ。
この流行ゆえに、80年代にゴールドやプラチナを獲得したHRバンドの多くが、ほとんど売れなくなってしまったのだった。
HAREM SCAREMも例外ではなく、その要素を自分の音楽に取り入れた。
それが『VOICE OF REASON』だ。
1stや2ndのような華やかさはまるでない。
その次は、その反省を生かしてその要素を除外した観はあったが、その後遺症が残り、しかもいい曲が作れなくなっていったのは明白だった。
この時期に、HRバンドがかつてのセールを上げれなくなったのは、単にグランジの要素を取り入れたというだけでなく、不況ゆえの沈んだ気持ちが生じたゆえか、いろんなことが原因になっていい曲が作れなくなったのだ。
単に、グランジの台頭だけではないだろう。
その流行が長らく続いたゆえに、HRバンドの人気の減退が起き、逆にHMバンドの台頭という現象が起きたのだ。
FIREHOUSEやWINGER、EUROPEといった80年代中盤から90年代初頭まで、HR界の先陣を切っていたアーティスト陣たちでさえも、クラブ規模のキャパに甘んじざるを得なくなっていった。
WINGERは全盛期には中級ホールで数回、EUROPEは日本武道館で2日間やった。
しかし両方とも、最近では川崎クラブチッタで、アルバム完全再現やファンからのリクエスト曲を演奏する、という企画モノをした。
クラブチッタでは、こういう企画モノをすることが多い。
かつての最大ヒットアルバムの完全再現や、ファンからのリクエスト曲を集めてそれをライヴで演奏する、というようなものである。
それはいいことだろう。
やはり、アーティスト側に選曲をすべて委託していては、やはり自己満足になりがちだし、そんな自己満の選曲ではファンも気分が悪い。
HAREM SCAREMもこのチッタで、同じような企画ライヴをした。
かつて大きな人気を博したHRバンドに代わって、ヘヴィでラウドな音楽を奏でるバンドが、人気を凌駕し始めたのだ。
その日本での最たる結果が、『LOUD PARK』の発生だろう。
その名の通り、ヘヴィでラウドなバンドが一堂に会するフェスだ。
2017年の『LOUD PARK』においてWINGERも参戦した。
このバンドは、90年代初頭において日本では中級ホールで数回の公演を実現した。
そんなWINGERが、このイベントでOPETHやOVERKILLよりも前順で演奏するとは、かつての90年代初頭における人気を見ると信じれない気分になった。
確かに『LOUD PARK』という企画自体、そういうヘヴィでラウドなバンドを中心にしたメタルのギグであり、そんなギグにHRバンドが参戦したら、前順になるのは当然の理であることは間違いないし、HRバンドばかりを集めたギグでは、そういったヘヴィでラウドなバンドは前順になることは必至であることは間違いない。
しかし、かといってヘヴィでラウドなバンドのどれもが人気が急上昇して、売れまくりになり、シーンを牽引するようになったかといえばそうでもなかったのだ。
METALLICAやJUDAS PRIESTやSLAYERといった大御所的なバンドだけが頂点にたって、それ以下のバンドは、イベントではトリにはなれなかったし、アリーナ以上のキャパでの単独公演もかなってはいないのだ。
かなり少数のバンドのみが大御所にのし上がり、それ以下は中級かそれ以下の人気に甘んじ続けたのだ。
かといってそういう事実をもってして、それらのアーティスの音楽が下衆であるなどというつもりはないし、METALLICAやSLAYERといったバンドの音楽が手離しで称賛できるかというとそれもまた疑問なのだ。
JUDAS PRIESTの音楽は私の意見では全く不満はなかったが、METALLICAやSLAYER、そしてMEGADETHといったバンドのアルバムには文句が少なからずあるのは事実だ。
その内容については、ここでは取り上げないが、端的にアルバムに占める佳曲の割合が少なくなっていったのだ。
そんな中、96年にデビューしたNICKELBACKは、ヘヴィでラウドなバンドというには遠いが、少なからずそういう要素を持ってはいるがHMバンドというには形容が当てはまらないのは言うまでもない。
NICKELBACK 96
やはりHRバンドという形容のほうが当てはまる。
HAREM SCAREMと出身は一緒だが、そのデビューから遅れること数年だが、着実に人気を集めて、世界で今やシングルとアルバムを合わせて5000万枚以上を売ってきたのだ。
この爆発的な急上昇ぶりにはだれもが注目せざるを得ないだろう。
このバンドのウィキペディアを見れば、そのアルバムの各国でのチャートの上昇ぶりや、売れ行きを見るとファンとして嬉しくなるほどだ。
“Burn It To The Ground” 『DARK HORSE』収録
しかし、同じ出身国であるHAREM SCAREMのウィキペディアを見ると、デビュー作とセカンドがわずかにカナダや日本でチャートインしているのを確認するだけで、どれだけ売れたといった記録は一切ないのだ。
そんな売れていないのか!と心配になる。
そういった売り上げだけが音楽を評価する手段にはならないのは百も承知であるし、ライヴも好評ゆえに他の国でもよかったのは明白だが、しかし…。
NICKELBACKの音楽はHMではないし、HRにカテゴライズする方が妥当だ。
しかし、80年代から90年代初頭までのHRとは違うし、やはりグランジの影響も少なからず受けている。
しかし、グランジ一色ではないし、取り入れたうえで佳曲に仕立て上げたということが音楽を聴けばわかるのだ。
NICKELBACKやLIKE A STORMといったバンドを調べると、ポストグランジというジャンルが掲げられている。
要するに、グランジの要素は待ちながら、良き音楽性に仕立て上げたということだ。
グランジそのものになったのではなく、要素を取り入れながら自分の音楽を磨いて昇華させていったということだ。
LIKE A STORM
その取り入れるべき割合の比率は、わかりかねるが、それはそのバンドによって違ってくるだろうし、曲によっても違ってくるだろう。
一概にこの比率を入れるべしといったことは言えないはずだ。
グランジの特徴は主に、80年代の中盤から91年や92年の中盤までのHRバンドには見ることのできなかった金属音である。
聴いてすぐに黒を彷彿とさせる重低音である。
それが混入していることでその影響がわかるのだ。
※参考記事
それをハードロックバンドが取り入れることに何ら私は不満を抱かない。
ただし、それを取り入れることで佳曲に仕上がっていればの話しである。
取り入れることで、佳曲が少なく、また全然なくなってしまっていたのでは、批評の対象でしかなくなるのだ。
その取り入れる度合いと、仕立てる工夫がなされているかどうかだ。
これらが巧みでないと、やはり「取り入れるべきでなかった」ということになってしまう。
それが、LIKE A STORMにしろNICKELBACKにしろ非常に巧みであったとしか言いようがないし、ゆえにヒットに恵まれたのだ。
しかし、その音楽の評価も人によって変わってくるのは致し方ない。
グランジを取り入れることでいい曲になったという評価を雑誌関係の人からいただいているのはWINGERの『PULL』であるが、それも一理はある。
『PULL』
しかし、取り入れないで作られた1stの『WINGER』にしろ2ndの『IN THE HEART OF THE YOUNG』のほうが魅力的だったので、その声はかき消されてしまっているし、『PULL』はいまだにセールを伸ばせていないし、多くの国で廃盤になってしまっている。
1stや2ndはいまだに入手可能なのに…。
90年にデビューしたSTEELHERTは、その『STEELHEART』の出来があまりに素晴らしすぎたが、その4年後に出た『WAIT』もグランジを大幅に取り入れた出来になり批判を浴びたが、私は『STEELHEART』程よくはないが、それでもアルバム通して聴けるアルバムとは思っているし、これまでこれを中古盤屋に売ろうと思ったことはない。
起死回生の作品になった2017年の『THROUGH THE WORLDS OF STARDUST』はグランジ的な要素を含んだいい出来だったし、胸を張って人に薦めれる。
しかし、このバンドはあまりにバンド内のいざこざが多くアルバムを出す回数も減ってしまっているがゆえに、ファンからはあまり注目されずに終わってしまっているいるのが現状だ。
こういう活動があまり見えないバンドは関心の対象外になってしまう傾向があるのはだれしも認めるだろう。
HAREM SCAREMが、こういう巧みな取り入れをして佳曲に仕上げたのであれば、私はファンになったのだが、そうはならなかった。
いや、グランジを取り入れるかどうかの前に、佳曲が少なくなっていったのだった。
私は2002年の『WEIGHT OF THE WORLD』を買って聴いたが、やはり「いい曲なんだけどねえ」で終わってしまい、中古盤屋に売ってしまっていた。
これだけで、割り切るのはこのバンドのファンからお𠮟りを受けそうだが、やはり割り切るという行為は必須だ。
やはり時間とお金の制約が厳然と存在するのだがら。
もし何等かの機会で、それ以降のアルバムでいいものがあったら、その意見を正す言論をここで書こうとは正直思っている、デビュー作と次のアルバムでいい思いをさせてもらったのだから…。
しかし、それも時間の制約があるのだ。
私は前回のNICKELBACKの日本武道館公演にも当然足を運んだ。
東京ドームは武道館の4倍の大きさだし、それがかなうとしたら武道館公演を3回くらいできるようにならなくては、かなわない事だ。
しかしキャパはどうあれ、私はこのバンドを心底応援したい気でいるのだ。
あまりにも感動的な曲が多いし、このバンドに出会えてよかったと思うことが何度あったかわからないからだ。 また、このバンドの公演が決定したら必ず行くつもりだ。
その時は、私が住む東京では武道館レベルのキャパであることは間違いないだろう。
その際、前座をつけるのも一興だ。
その時に、HAREM SCAREMになってもらうのも一興だろう。
同じカナダ出身だし、NICKELBACKの音楽を好むファンならば、HAREM SCAREMの音楽は充分に受け入れられるのは間違いはないだろう。
多くのファンに見られて、再度このバンドの良さを体感してもらい、HAREM SCAREMの音楽に目覚める人も出てくるだろうし、かつて聴いていたが長らくHAREM SCAREMの音楽にご無沙汰していた人も再度このバンドを聴きたくなる人も出てくるはずだ。
大物アーティストの前座を務めることで、人気の下地を築くことができ、その結果アルバムがゴールドになり、プラチナになりということは80年代から90年代にかけて行われていたが、最近は全くと言っていいほどないのが不思議だ。

もし可能ならばNICKELBACKとHAREM SCAREMのドッキングをしてほしいと心から願いたいものだ。
NICKELBACKは今年『GET ROLLING』を発売し、世界中で売れている。
まさに好調そのものだ。
このアルバムは、最近ネットで買って今取り寄せている最中だ。
それの良さに耽溺しているうちに、HAREM SCAREMの良さを見直す、という作業をすっかり忘れるということにならないように戒めなくてはならないだろう。
今回はこれにて終了したい。
●以下、HAREM SCAREMの最高傑作アルバムを紹介したい。
↓
ハーレム・スキャーレム (ワーナー・ハード・ロック1500)
Harem Scarem
HAREM SCAREMのベストアルバムが以下!
↓
Very Best of Harem Scarem
●NICKELBACKの最高傑作アルバムの1つ=『DARK HORSE』は以下。
↓
ダーク・ホース
輸入盤
↓
Dark Horse
4つのクリップに最新のライヴ映像を収めたDVD付きのスペシャルエディション(外国盤)がコチラ! ↓
Dark Horse: Special Edition
●以下のサイトでも取り扱っています。
↓ タワーレコード
【HMV】ローチケHMV|音楽CD・DVD
今回はこれにて終了します。
ありがとうございました。