ジョー.スタンプの名をみるのは、実に20年以上ぶりだ。
この人のソロ作を『BURRN!』のレビューで見たときには、あまりにイングヴェイ.マルムスティーンばりのジャケットに驚き、「この人はイングヴェイの影響下のギタリストなのか?」と思っただけで終わった。
当時のイングヴェイの音楽は素晴らしかったし、感動モノばかりだったがゆえに、その影響を受けた人のギタリストのプレイを聴いても感動しないだろうと判断したからだ。
しかし、90年代後半からイングヴェイの更年期障害が始まり、いまだそこから抜け出せていないとなれば、彼のプレイや作曲力を凌駕するプレイヤーに意識がいかざるを得ないのは必然である。
最近、イングヴェイがかつて加入したALCATRAZZが2派に分裂してしまい、片方の派に自分がかつて意識していたミュージシャンが2人いれば、当然目が行くだろう。
その2人とは、ジョー.スタンプとドゥギー.ホワイトである。
ドゥギーは、そのイングヴェイのバンドにも参加していたし、その前にはRITCHIE BLACKMORE'S RAINBOWにも参加していた。
そのRITCHIE BLACKMORE'S RAINBOWでの、歌唱ぶりには瞠目していたのだ。
ドゥギー & リッチー
私が、RAINBOWをタイムリーで見るのはこの時が初めてだった。
80年代にもこのバンドは活動していたが、その時は幼少期ということもあってハードロックというもの自体が意識の外にあったのだ。
それが今回はタイムリーで初めて、ということも興味のわくことだったのだ。
ALCATRAZZの音源をまず聴いてみたい、という衝動を抑えきれなかったが、どうしてか私はジョーの最新ソロアルバムである『DIABOLICAL FELOCITY』を聴いてみたいと思ったのだ。
かつてのイングヴェイが所属したバンドのギタリストだから、どのような音楽性を体現しているのかという興味の方が強かったのだ。
そして聴いてみた。
すると、イングヴェイからの影響はひしひしと感じるが、そこからくるパッションやオーラは、イングヴェイ以上だ。
その良さについては、以下のページで書いたので、それを参照してほしい。
さて、そのジョーとドゥギーが参加して作ったALCATRAZZの『Ⅴ』であるが、最近のイングヴェイの更年期障害に我慢できない音楽ファンの鬱憤を一気に晴らす内容といえる。
それは断言する(笑)
このアルバムは、疾走感あふれる“Gurdian Angel”で幕を開ける。
●“Gurdian Angel”
↓
初期イングヴェイが得意としていたのは、様式美である。
そしてクラシカルミュージックから抽出したフレーズをちりばめながら、展開していきながら、伴奏と調和した速弾きソロを展開していくのだ。
その手法が、ここでも取り入れられているが、注目すべきはその伴奏との調和である。
イングヴェイ.マルムスティーン
近年のイングヴェイは、その調和ができていないで、自分のソロばかりが独奏してしまうのだ。
それゆえに、聴いている方は感動もしないし、萎えてしまうのだ。
そして、演奏にもパッションが感じれないのだ。
調和がないからそう感じるのか、もともとパッションがなくなってしまったのかは正確にはわかりえないが…。
その不満を一気に吹き飛ばしてくれるプレイをジョーはしてくれているのだ。
やはり、調和というのは他のミュージシャンとの共作によっておこるのだろう。
しかし、近年のイングヴェイは作詞作曲をほとんど自分でこなしてしまうがために、それがかなわなくなっているとしか思えないのだ。
しかし、このALCATRAZZでは、ジョーとドゥギーでほとんどを共作しているので、調和がかなっているのだろうと思う。
次の“Nightwatch”はもっと注目すべき曲になっている。
そういった面だけでなく、緩急溢れるソロのメロディのじらしもあるために、いやがおうにも興奮せざるを得ないのだ。
単なる速弾きソロでは感動しない。
しかし、ジョーは速いだけでない聴き耳を立てざるを得ないフレーズをどの曲でも盛り込んでいるのである。
やはりそれは努力だけでは身につかない天性のものなのだろうか?
次の“Sword Of Deliverance”も80年代当時の懐かしき黄金時代にタイムスリップを叶えてくれる晴れ晴れとした高揚感に溢れているのだ。
明るいイメージが非常に強いのだ。
それがゆえに、思わずヘドバンをかましたくなる陽気な曲だ。
ジョー.スタンプ
2曲後の“Grace Of God”は、HELLOWEENの“I Want Out”そっくりのメロディなので思わず笑ってしまうのだが、あれも陽気な気分にさせてくれる佳曲だ。
そしてこの曲では見事な速弾きソロが展開されているので印象はいい。
次の“Turn Of The Wheel”や“Return To Nevermore”は、初期のDIOの名曲を往年のイングヴェイが更なる佳曲に仕上げた観のあるミドル~スピーディな名曲だ。
曲展開にじらしが施されて、「これってイングヴェイが弾いているんでしょう?」といわざるを得ないフレーズが盛りだくさんなのだ。
実は弾いているのはジョー.スタンプだが。
それでいてパッションはひしひしと迫ってくるほどだ!
それゆえについ瞠目せざるを得ないのだ。
●“Turn Of The Wheel”
↓
次の“Target”はRAINBOWの“Gates Of Babylon”をスピーディに仕上げたようで興味深い。
しかし、RAINBOWのギタリストだったリッチー.ブラックモアは速弾きを得意とするプレイヤーではなかったゆえに、私はいくらRAINBOWの曲を聴いても興奮できなかった。
やはり速弾きがなければ。
しかし、ここではジョーの見事な速弾きソロがあるのでどうしても興奮してしまう。
リッチー.ブラックモア
次の“Maybe Tomorrow”は、DIOの“Holy Diver”を彷彿とさせる出来の曲だ。
しかし、そこで弾いていたヴィヴィアン.キャンベルも速弾きを得意とするところではなかったゆえに、これも感動できなかった。
文句ばかりが多いが(笑)、それが正直なところなのだ。
しかし、この曲でも素晴らしい速弾きソロが展開されているので興奮を隠せなくなってしまうのだ。
中でも緩急のある展開がいいのだ。
ただソロを展開するだけではいいイメージはつかないのだ。
次の“House Of Lies”はグラハム.ボネットが参加したRANBOWの“All Night Long”を彷彿とさせる曲だ。
さっきから彷彿とさせるという表現が目立つが、やはりこういった音楽性が共通するミュージシャンの影響を、ジョーもドゥギーも受けてきたということだろう。
それは完全なるパクリではないし、何よりも演奏のパッションが高いことから不問になってしまうのだ。
いや問いかけすらもする必要はないのだ。
そういうパッションがあふれているプレイゆえに、どの曲にも意識が向かわざるを得なくなり、興奮の渦に引き込まれる感じなのだ。
次の“Akice's Eyes”にしろ、最後の“Midnight Won't Last Forever”にしろリフからくるパッションゆえに気を振るい起させる気がするのは私だけではないだろう。
当のジョーだが、イングヴェイに影響を受け、インスパイアされたのは明白だが、イングヴェイよりも年若いのかと思いきやさにあらず、ジョーのほうが3つも年長だというではないか!
普通は逆なのだが。
しかし、残念ながら(?)イングヴェイよりもジョーのほうがパッションや冴えでは上位をいっている。
その原因は心理を深く探ってみなければわからない。
しかし、どのような心理状態であるにしろ、パッションや冴えで上のミュージシャンのほうが聴きたくなるのは言わなくてわかるだろう。
ゆえに、今はジョー率いるALCATRAZZのほうが聴きたくなり、応援したくなるのは当然の帰結だ。
このアルバム全体において、イングヴェイ初期や、DIOやRAINBOWといったバンドに青春を過ごしたファンにはたまらない良好な歌メロやサビが多く盛り込まれているのだ。
イングヴェイのファンが通るのはやはりROYAL HUNTもそうだろう。
93年に出したデビュー作が、かなりイングヴェイを彷彿とさせるものだったがゆえに、そしてネオクラシカルという同じ土俵だったゆえに注目を浴びた。
私も注目して聴いたが、アルバムを重ねるごとに感動できなくなっていったのだ。
それは、このバンドのリーダーであるアンドレ.アンダーセンが作詞作曲を1人でこなしてしまうからだ。
アンドレ.アンダーセン
シンガーも作詞に参加できないゆえに、その曲を聴いても私は感動できなくなっていったのだった。
今のALCATRAZZのシンガーであるドゥギー.ホワイトは、RITCHIE BLACKMORE'S RAINBOWでも、このALCATRAZZでも彼は作詞にも参加している。
それが感動できる最高のスタンスなのだ。
※参考記事
何から何まで1人のミュージシャンが書いていては、悪しきトータルコントロールなのだ。
聴いている私は感動できるはずもないのだ。
初期イングヴェイやDIO、DEEP PURPLEといったバンドのファンには必ず受け入れられる佳曲のあふれたアルバムであると断言できると思う。
イングヴェイの音楽に感動できなくなってしまった私が、彼に影響を受け、インスパイアされたミュージシャンがかつてイングヴェイが加入していたバンドに加入して、そこでのプレイに感動することになるとはまったくもって予想すらしていなかったことだった。
それゆえに、イングヴェイよりも、今のALCATRAZZを応援したいと思うのだ。
当然、来日公演も行ってほしいと思うのだがそこはどうなのだろうか?
まずはこのアルバム『V』を心から紹介したいものである。
●以下よりどうぞ!
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Alcatrazz アルカトラス / V | ||||
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●以下のサイトでも取り扱っています。
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タワーレコード
【HMV】ローチケHMV|音楽CD・DVD
※参考記事