イングヴェイ.マルムスティーン
マイケル.シェンカー
イングヴェイ.マルムスティーンとマイケル.シェンカーの共通点。
それは、ともにギタリストで、ともに自分の名を冠したバンドを持つミュージシャンということだろう。
かれらは、初めはヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードといったミュージシャンを擁する普通のバンドのメンバーだったが、それでは飽き足らず、自分のやりたいことを追及して、自らのバンドを結成し今に至るのだ。
その長さ、実に30年以上だ。
自分の名を冠して、他のメンバーを集めて、たいてい1つか2つのアルバムを出したら、ほとんどのメンバーを入れ替えて、次のアルバムを作るのだ。
こういうパターンは珍しい。
ゆえに賛否が分かれて、それほど絶大な人気を誇ることは出来ない。
とはいえ、ここ日本での彼らの人気は高く、ともに日本武道館公演を実現させている。
私が、イングヴェイのアルバムを初めて知ったのは、90年発表の『ECLIPSE』だ。
『ECLIPSE』
このアルバムジャケットには、ギタリストのイングヴェイ1人しか載っていないし、その名前がジャケットに銘記されているから、このアルバムは、この人のギタープレイだけを収めたソロ作品なのかと思いきやさにあらず、ちゃんとヴォーカリストのリストも入っているし、ベース、ドラム、キーボードといった他のミュージシャンも参加している。
「珍しいなあ、こういうパターンは…」という思いで、そのCDを買い聴いてみる。
その素晴らしい出来に唖然としたのだ。
超絶な速弾きを漫然とこなし、適度のヘヴィさもあり、曲全体もメリハリがあり、スピーディな曲、バラードの曲、スローな曲とバラエティに富んでいて、いつまでも耳朶に残るメロディがどの曲にもあり、私を一気に虜にしたのだ。
それで、この人の他のアルバムは全部集めたのだ。
どれもよかったのだ。
こういう状態だったゆえに、この人は永遠にいいアルバムを出し続けるのだろうと必然的に思ったのだ。
同じ時期に、マイケル.シェンカーも知ったのだった。
この人は、私がアルバイトをして自由な金を持つことができなかった時代に知ったので、聴きたい欲求を持ちながらも、買えず, 聴けずじまいの時期からの脱却を経てようやく聴くことができた。
そのアルバムは『SAVE YOURSELF』である。
『SAVE YOURSELF』
このアルバムのあまりにアメリカンテイストで,アメリカウケするようなメロディもよく、耳朶に残る品位を存分に備えていた。
どの曲も、ギンギンの速弾きのソロを展開してくれていたので、私が興奮しないはずはなかった。
このアルバムを何度聴いたかわからないほどだ。
この人のことをあまり知らない時期から、この人は神と崇められていたのだ。
ゆえに、この日とアルバムは必ず聴かねばと思っていたので、聴いたのだが、神よろしく素晴らしい出来だったし、どまんなかストライクのアルバムを作ってくれたなと感謝したい気持ちでいっぱいだった。
しかし、これに味をしめた私は、次のアルバムや、自分のバンドを作ってからの初期のアルバムから聴いてみたが、ことごとく外れてしまっていたのだ。
こんなに音楽性を変えるか?と訝しげに思ったのだ。
しかし、マイケルは、それをあたかも当たり前のようにしていたから驚きだ。
彼のアルバムを3つくらい買って聴くも、同じような不満の出る出来だったので、それから先はニューアルバムが発売されても、私は不問にしていたのだ。
その不満は、まずあまりに生々しすぎるギター音で、『SAVE YOURSELF』で見せたギンギンの速弾きはほとんど姿を消してしまったのだ。
そして緩急のない曲展開で、聴き手を喚起する局所がなかったのだった。
そんな不満を抱いていたが、それは私を含めた少数の人だけだったらしく、マイケルの人気は80年代の半ばの全盛期から、それほど目減りせず、それのみか、新しい年代のファンまで獲得できているようだ。
東京公演では、ここ数年必ず7000人弱を擁する東京国際フォーラムでできているから凄い。
しかし、『SAVE YOURSELF』で見せた音楽性よりも、初期や最近のアルバムの音楽性の方がウケやすいのだろう。
それを踏襲しているがゆえに、高い人気を維持しているのだから。
逆に、ギンギンの速弾きや、緩急のある音楽性の方がウケはそれほど良くないようだ。
ギンギンの速弾きよりも、速弾きでない手なりのソロの方がウケやすい。
アルバムとシングル合わせて全世界で3億枚を売ったLED ZEPPELINにしろ、2億枚を売ったAC/ DCにしろ、1億5千枚を売ったAERSMITHにしろ、どれも手なりのソロだ。
AEROSMITH
ギンギンの速弾きソロをしているアーティストで1億枚以上を売ったのはBON JOVIとMETALLICAくらいのものだろう。
全体的に、手なりのソロをしている方がウケやすい。
それは、ギターを手に取って、コピーしやすいからだ。
コピーできる曲が増えれば増えるほど、そのアーティストとの心の距離は近くなって、ますますそのアーティストが好きになる。
逆に、難しい速弾きでは、なかなかコピーできず、そのうちコピーするのを諦め、アーティストとの距離は遠くなって、アルバムを買うことも少なくなり、公演にも足を運ばなくなるのは必然だ。
また、ドラマ性を有した曲や、オーケストレーションを導入した曲などもコピーするには展開が難しいから、こういったバンドも敬遠されがちになる。
それにかなうように、マイケルは毎回手なりのソロを展開し、生々しいギター音に調整しているし、ドラマ性もない普通の長さの曲ばかりなのだ。
かたやイングヴェイは、毎回毎回ギンギンの速弾きを展開している、というか速弾きこそが彼の代名詞なのだ。
その技だけでなく、作曲面でも卓越した面を見せてくれていたのだ。
しかし、それは84年のソロのデビュー作から、98年の『FACING THE ANIMAL』までは、だ。
それ以降は、まるで更年期障害が始まり、プレイにも、作曲にも卓越したモノが見えなくなってしまったのだ。
細かく述べれば、94年発表の『SEVENTH SIGN』を頂点に、次からトーンダウンし、その次はもっとダウンし、その次からは聴けた代物ではなくなってしまったのだった。
これは、更年期障害のみならず、作詞作曲のスタンスにも目を向けなくてはならないだろう。
90年代中盤までは、イングヴェイが作詞作曲をほとんど手掛けていたが、それにシンガーも作詞を半分くらい、あるいはほとんどを手掛けていたのだ。
※イングヴェイの最高傑作のアルバム収録の曲は以下。
●“Pyramid Of Cheops”
↓
アルバム
The Seventh Sign
それが2000年以降は、作詞作曲の全部をイングヴェイが手掛けることになってしまったのだ。
それも起因して、イングヴェイのミュージックには感動できなかくなってしまったのだ。
他の人間が書いた詞を歌っても、そこにはハートも感じなければ、ソウルも感じれない。
ゆえに、私は、いくら曲の出来が良くて、演奏もうまく、歌もうまいバンドでも、シンガーが作詞をしないバンドのCDはいつしか疎遠になり、中古盤屋に売るということを何度もしてきたのだ。
他の人の書いた詞には、書いた人の感情や主張が入っている。
それを、シンガーが完全に感情移入することなどできた話しではない。
ゆえに、シンガーが歌詞を書かないものには感動ができずにここまで来たのだ。
バンド内の事情である中心人物が作詞作曲を担当することが暗黙の了解で決まっており、シンガーが作詞を担当できないというパターンもあれば、単にシンガーに作詞能力がない、というパターンもある。
前者の例が、DANGER DANGER、ROYAL HUNT、SKID ROW、NIGHTWISH、MESHUGGAH、MOTLEY CRUEといったバンドになる。
こと後者の例はTHUNDERやFAIR WARNINGになる。
英語圏で生まれ育ったか否か、といったことはあまり、というか全然関係ないとしか私には思えない。
現に、クラウス.マイネ(SCORPIONS)、ジョーイ.テンペスト(EUROPE)、ヴィレ.ヴァロ(ex HIM)、イーサーン(EMPEROR)、ロニー.アトキンス(PRETTY MAIDS)、クリスティーナ.スカビア(LACUNA COIL)、シャロン.デン.アデル(WITHIN TEMPTATION)といった非英語圏のシンガーの歌にはかなり感動させてもらった経験がある。
非英語圏のシンガーでも、自分で歌詞を書けば自然と感情をこめれるのだ。
その感情が聴き手に感動を喚起するのだ。
ただ後者の例は、1度だけマジックが生じて、1枚のアルバムだけは感動して聴けるのだ。
THUNDERのデビュー作『BACKSTREET SYMOPHONY』は感動して何十回も聴いたが、次のセカンドアルバムからは全然聴けなくなってしまった。
FAIR WARNINGのデビュー作『FAIR WARNING』も感動して何十回も聴いたが、次のセカンドアルバムからは全然聴けなくなってしまった。
同じように、イングヴェイが2000年以降は、作詞まですべて手掛けるようになってしまったがゆえに、まるで感動できなくなってしまったのだった。
しかし、マイケルは、ミュージシャンシップならぬ、シンガーシップを尊重して、歌詞を書いてもらうように努めているのだろうか?
80年代においても、90年代においても、2010年以降も、作詞をシンガーに任せているパターンが多くある。
その内で目を惹いたのは、2011年にMICHAEL SCHENKER’S TEMPLE OF ROCK名義で出した『TEMPLE OF ROCK』アルバムで、これには私が93年に買って何十回も聴いたCASANOVAのシンガーであるマイケル.ヴォスが参加しているではないか!
それを、2020年代に入って初めて知ったのだ。
興味を持って買って聴いたのだが、このヴォスを活かす音楽性ではないとすぐさま感じたのだ。
あまりに生々しく緩急のない曲展開に、なれるのに時間がかかると判断したし、そう何度も聴いたとしても果たして好きになれるか疑問だったのだ。
『TEMPLE OF ROCK』
やはりヴォスのヴォイスを活かすには、CASANOVAの音楽性ではないとだめと思ったのだ。
しかし、次の2012年において、来日公演が実現したのだった。
ヴォスにとっては、初めての日本での公演だったはずだ。
CASANOVAのファンだった私にとっては、これを逃してしまったのは今もっても悔やみきれないが、マイケル.シェンカーの音楽にほとんど興味がなかったからこういうことになってしまったのだった。
もし、『SAVE YOURSELF』のような音楽性を踏襲していてくれたら、シェンカーのファンになっていただろうし、これを逃すことはなかったはずだ。
その『SAVE YOURSELF』の音楽性こそ、ヴォスの声を活かすには最適だっただろうことは容易に想像できる。 まさにアメリカンな音楽性を武器にしていたCASONOVAだったのだから。
マイケル.ヴォス
『SAVE YOURSELF』を出して、あのアルバムの内容を踏襲しなかったことについてマイケルは、「あのアルバムはアメリカウケをすることを意図して作ったが、当たらなかったので、元の音楽性に戻した」ということである。
そんな早とちりしなくても…と私は残念極まりないのだが…。
しかし、初めての来日を果たしたヴォスについて、当時は誰も興味を喚起しなかったのだろうか、と素朴な疑問がわく。
この人の前のバンドはどこ?なんていう名前?といった疑問が奮出して、検索をかけて、調べ、買い、聴くという行動には,あまりつながらなかっただろう。
なんばHatch、ダイアモンドホール、中野サンプラザ×2の4公演が2012年に開催されたが、この動員数をみれば、興味を喚起するには充分は規模だ。
しかし、2012年当時も、今も、あまりにアーティストの数が多すぎる。
ゆえにチェックしたいアーティストのリストが多すぎて、そのまま時が過ぎ、「そんなシンガーいたなあ…」程度で終わってしまう。
そして、他のCDのコレクションが多くあるために、新たに買い足したい気が起こらなかった可能性も高い。
それが、2000年代以降の消費者性向の特徴だろう。
80年代や90年代初頭であれば、目立つことが結構可能だったが、それ以降では…難しい。
98年にイングヴェイのバンドにコージー.パウエルがドラマーとして参加して話題になったが、この時にシンガーとして参加したマッツ.レヴィンだが、この人の歌いぷりは結構良かったが、この人の経歴を調べた人はどれくらいいただろうか?
イングヴェイの前には、SWEDISH EROTICA,TREAT,Abstrakt Algebraといったバンドを経験したが、それを調べて、そのバンドをチェックし、買おうかとも99年ごろに思った。
しかし、他の買っていないが関心のあったアーティストが大勢あったし、自由になるお金が少なかったがために、そういう行動には移せなかったのが私の事情だ。
そして今に至る。
しかし、『LOUD PARK 17』で、この人のバンドMICHAEK SCHENKER FESTがトリを務めた時に、ロビン.マッコリ-も登場して、『SAVE YOURSELF』からの曲を3曲ほどプレイしたが、他のシンガーの時代の曲も一緒に演奏されていたことが理由か、それらの曲にも聴いていて感動できなくなっていたのだ。
SCORPIONSもことは同じだ。
このバンドは90年発表の『CRAZY WORLD』の曲群のあまりの素晴らしさに耽溺し、91年の来日公演にも足を運んだが、それ以降も、それ以前にも佳作と私が思える作品がなかったがために、ファンになれなかった。
『CRAZY WORLD』と同等の作品を出せなどとはいわない。
せめて、これに準ずる作品が2作あれば、私はこのバンドのファンになっただろうし、来日公演が決まれば必ず足を運んだだろう。
しかし、それがなかったがために、ファンにはなれず、自分の中での中堅バンドにしかすぎないままなのだ。
『CRAZY WORLD』の曲は、今でも3曲か4曲ライヴで演奏される。
『CRAZY WORLD』
しかし、その曲を聴くだけのために、ライヴに足を運ぶことは出来た話しではない。
同じように、『SAVE YOURSELF』の曲を3曲くらい聴くだけのためにライヴに足を運ぶ気にはなれないのだ。
元より、今のマイケルは、『SAVE YOURSELF』の曲を全然しないのだが。
その『SAVE YOUSELF』収録の名曲は以下である。
“Save Yourself”
セイヴ・ユアセルフ
マイケルは、スタジオ、ライヴ両方でアルバムは30枚以上も出している。
ライヴ映像も10個を出している。
元SCORPIONSという肩書だけで、こんなに人気を保持できるほど甘くはない。
しかし、マイケルは、アメリカでは、ほとんど売れていない。
アメリカでゴールド以上の売り上げを達したモノは1つもないのだ。
同じドイツ出身のACCEPTは、83年の『BALL TO THE WALL』が、1枚だけアメリカでゴールドを獲得したのだが。
ACCEPT
しかし、日本を含む多くの国では、売れているがゆえに、これだけのアルバムや映像を出し続けていられるのだろう。
そして、来日公演の観客動員数は、高い方に属する。
単独公演の動員数は、全公演のキャパを足すと毎回1万人を超えているのだ。
これだけの動員数をいまだに誇れているのは、1握りのアーティストだけだ。
最高記録だった82年の日本武道館で2デイズは、無理にしても、これだけの動員数は素晴らしい。
かたやイングヴェイは、マイケルの日本武道館2デイズは叶わなかったが、1日だけでしたことがあった。
その回数3回だ。
その内の1つが、アルバム『SEVENTH SIGN』を発表したときだ。
これを頂点に、人気は落ちていく一方だったが、それでも、中規模のホールではできているのだから、それは良しとしよう。
その他、イングヴェイ.マルムスティーンとマイケル.シェンカーの共通点は、共に、『LOUD PARK』でトリを務めたことだ。
イングヴェイは2013年に、マイケルは2017年にヘッドライナーになった。
そしてともに、コージー.パウエル、グラハム.ボネット、ドゥギー.ホワイトといったミュージシャンと時期は違えど、一緒に活動したという経緯を持っている。
ここまでイングヴェイとマイケルの歴史を比較して、共通点を抉りだしたが、知的好奇心のまま分析したまでである。
共に、良いアルバムがあるものの、近年には感動できるアルバムではなくなってしまったがために、疎遠になってしまっているのだ。
ただ、こうなってしまったがゆえに、この先も無視を決めつけるかというとそんなことはないのだ。
やはり、人生は小説よりも奇なり、ゆえに、この先どんな変貌があるかもわからないのだから。
そこは虚心坦懐に見ていこうと思うし、可能性の蓋は閉じないでおこうと思う。
かつて、自分が心底気に入った彼らのアルバムを坦懐に聴き続けながら…。
ここまでの精読に感謝したい。
●以下のサイトでも取り扱っています。
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タワーレコード
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今回はこれにて終了します。
ありがとうございました。
♯イングヴェイ.マルムスティーン
♯マイケル.シェンカー