(コラム)ARCADEとDIOは真逆の運命を辿った。そのわけは…DIOの最高傑作は?

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   ARCADE


RATTのシンガーだったティーヴン.パーシー93年ARCADEを結成し、アルバムを発表する。

そして、来日公演もその年に実現させた。

このデビュー作は、RATTにはない魅力を有し、スピード、ミドル、バラードと曲風もバラエティに富んでおり、聴きごたえ充分で、この年に何十回聴いたかわからない程だった。

そのアルバムの収録曲でシングルになった曲が以下だ。

RATTからは想像できない風だが、佳曲だ。



結構売れたアルバムゆえか、東京や神奈川での公演は、中野サンプラザ2回グリーンホール相模大野1回というものだった。

その来日公演のリポートも『BURRN!』でなされ(中野サンプラザ)、そのリポートの最後には「今後、このバンドを見守らずにはいられない!」と書いてあったが、私もまさにその通りの気持ちだった。

しかし、次の年にセカンドアルバムA/2を出した。

これが、当時のグランジをかなり大幅に取り入れた出来になってしまい、かなり魅力が減退してしまったのだ。

あまりに魅力のないメロディになったアルバムになってしまったので、ほとんど聴いていないし、1994年発表にもかかわらず、今も新品のようないでたちだ。

このような出来になってしまったのは、ティーヴンの作品上、初めての事だった。


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A/2


このアルバム発表直後のインタビューでティーヴンは「現代の音楽を意識して作ったのですか?」という質問に対し、「みんながどういうのを欲しているかがわかったのでそういう出来にした」という答えをしていたのを覚えている。

嫌なのを無理やり自分の心を鼓舞して取り入れたのではないだろう。

やはりちょっとした好奇心もあっただろうし、レコード会社からの圧力もあったことは間違いない。

しかし、当時のはやりを取り入れることが結果的に佳曲の揃ったアルバムになったのであれば、それはそれでいいと思うのだ。

しかし、当時のはやりの要素を取り入れることで、そのバンドの魅力が減退してしまったのであれば、それは批判せねばならないのは言うまでもない。

魅力の減退がこのアルバムでは大幅に生じてしまったのだった。

しかも、デビュー作のARCADEよりアルバム売上げでも大幅に落ちてしまったのだった。

それゆえに、ARCADEデビュー当初にティーヴンは、「RATTの曲はやらないよ!」といっていたが、この時のツアーではアンコールの1発目で“Lay It Down”をフィナーレではRATT最大のヒット曲の“Round & Round”をセルフコピーしていたのだ。

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アルバムの売り上げが下がってしまい、それゆえにコンサート動員も落ちてしまったのならば、その前言を撤回しなくてはならない状態になったのだろうことは間違いない。

ティーヴンの声は特徴的ゆえに、彼を目当てにARCADEのファンになった例が多いのは当然の帰結だろう。

その彼がかつて属していたバンドのヒットチューンが演奏されれば観客が沸くのは当然だ。 この時期のARCADEのオーディエンスショットのブートがあるが、それを今も鑑賞するのに、実に興味深いのだ。

デビュー作発表後の来日公演には行ったし、94年も発表後きて、このように“Lay It Down”“Round And Round”を演奏してくれたら非常に良かったのだったが、そのツアー中にバンドは空中分解して、解散するにいたる。

ハードロックバンドの例で、こういう出来になってしまったのは、何もARCADEだけではない。

BAD MOON RISINGの『BLOOD』、DANGER DANGERの『DAWN』、L.A GUNSの『AMERICAN HARDCORE』、DEF LEPPARDの『SLANG』、EXTREMEの『WAITING FOR THE PUNCHLINE』、TNTの『FIREFLY』、WINGERの『PULL』、STEELHEARTの『WAIT』といった例が挙げられる。

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PULL

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WAIT


最後尾の2者は、グランジを取り入れながらも、佳作に仕上げたHRの名作とも評する論者はいた。

しかし、それで問題となるのは、絶対的に佳作か、ということである。

グランジを取り入れたにもかかわらず、佳作に仕上がったという考え方では、本質を見誤ってしまう恐れがある。

グランジはハードロックにはなじまないものである、という思い込みが先にあり、それでも佳作に仕上がったという考察の方法であると、本来の選考法とは異なり、いつまでも心に残る出来かどうかを判断するには齟齬が生じてしまうのである。

そうではなく、他のものと比べることなく坦懐に聴いてみて、いつまでも聴きたいか、ということが先にありきではないと音楽を鑑賞するには、穿った見方になりがちだ。

WINGERの『PULL』にしろ、STEELHEARTの『WAIT』にしろ、良い出来ではあるけれども、率先して手に取って聴きたい出来であるかというとそうでもないと私は思う。

しかし、それでも要らないという思いにはなっていないので、私はこれらのアルバムは、今も所有しているが、WINGERは『WINGER』や『IN THE HEART OF THE YOUNG』のように、STEELHEARTは『STEELHEART』のように、他のアルバムと較べることなく率直に聴きたくなるかという言うとそうではない、というのが正直なところだ。


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STEELHEART


それ以外の、グランジに染まってしまったHRアルバムは、イヤホンをつけて音の細部まで聴きいってそのアルバムの特長を見出そうとすれば、それは良い点は見つかるだろう。

しかし、そんな面倒なことをするのではなく、普通にプレイヤーにかけて気ままに聴くことで、すぐさま興奮する出来の往年の傑作アルバムを聴いていた方が、好意が湧くに決まっている。

それゆえに、迷盤を検証する面倒よりも、往年の傑作アルバムの方ばかりを聴く回数の方が増えて、迷盤は縁遠くなり、ついには中古盤屋等に売ることになり、おさらば…ということになってしまう。

やはりハードロックにグランジの要素を盛り込むのは、木に竹を接ぐ行為に等しいのだろうか?

ゆえに、聴くだけですんなり好きになれないで終わってしまう。

ハードロックグランジを盛り込んだ真の名盤というのは存在しないのだろうか?

あるかもしれないので虚心に探索していこうとは思っているが…どうだろうか。

グランジの音楽的な特徴は、ミドルテンポ中心でヘヴィ、ドンヨリダークでメランコリックなメロディが散見されるといった感じだろうか。

その特徴も、経年していけば当然変化するのだが、とりあえず大幅にはそういう音楽的な特徴を有していたということだ。

しかし、逆に、ヘヴィメタルにはそういった要素を盛り込むことで、大幅に魅力が増した、という例はある。

その代表がDIOSTRANGE HIGHWAYSANGRY MACHINEである。

BLACK SABBATHだったロニー.ディオは、83年に自身のバンドDIOを結成しアルバムを出す。

これが全米でプラチナを獲得し、次もプラチナ、その次はゴールドを獲得した。

ゆえに、この3つDIOの傑作アルバムの代表とされている。

そんな古典的な名作に祭り上げられていたゆえに、当然私もそれらを聴いた。

しかし、そんな良いとは思えなかったし、かといって悪くもなかった。 そんな印象では縁遠くなるのは必然である。


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    ロニー.ディオ


ベスト3がこの程度なのならば、その他は聴く必要がないと思い、他のアルバムはリリースされても、興味の蚊帳の外に置いておいたのだ。

しかし、某輸入盤において閉店セールが催されていて、DIOの海外のベスト盤が売られていた。

安かったがゆえに、買って聴いた。

其の3つのアルバム収録の曲は相変わらず面白くなかったが、後方に収められていた“Evilution”という曲が異様に私を虜にしたのだ。

ミドルテンポで、かなり重たいギター音だが、それがかなりの程度ロニーの声を活かすのは目に見えていた。

そして、その重低音の中をすり抜けるような、滑らかなベース音の出し方も申し分なかった。

それが以下!



この時に、このバンドに属していたのはDOKKENのベーシストであるジェフ.ピルソンだった。

そして、ギターを担当したのは、当時は無名だったトレーシー.Gだった。

巨漢にポーカーフェイスなのが印象的だったが、姿に似合わず速弾きギターソロを巧みに操る技術は一級品だ。

この人が、このアルバムでほとんどの曲で作曲を担当していたことで、かなりの程度、ロニーの声を最大限生かすことにつながっていたのだ。

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       トレーシー.G


この曲がSTRANGE HIGHWAYSというアルバムに入っているということを知り、すぐさまこのアルバムを取り寄せて聴いたのだ。

最初から最後まで、最高のヘヴィミュージックを堪能せてくれるDIO史上最高のアルバムだということがわかった。

ロニーは、グランジの要素の、「ヘヴィかつダーク」の部分を、更に昇華させて取り入れたのだ。


・それが以下!
  ↓


ストレンジ・ハイウェイズ

輸入盤


Strange Highways


そしてトレーシー.Gが関わった次のANGRY MACHINESもだ。

しかし、STRANGE HIGHWAYSにしろ、ANGRY MACHINESにしろ『BURRN!』では評判は良くない。

しかも、トレーシーに至っては、DIO史上最悪のギタリストなどと嘲られていたが、そんなの言語道断である。

彼こそは、DIO史上最高のギタリストだ。

DIO史上最悪のギタリストなどと言っていた人は、デビューから3作目までのDIOこそが、彼ららしいアルバムと信じて疑わないでいた人だからだとしか思えない。

それらと、このSTRANGE HIGHWAYSANGRY MACHINESには音楽性で大いに断絶があるのだ。

STRANGE HIGHWAYS』や『ANGRY MACHINES』が出た当時、ロニー50代後半


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STRANGE HIGHWAYS


その年齢のシンガーが、若者の真似をしたって駄目なんだ、というニュアンスの批判をしていた『BURRN!』論者がいたのを覚えている。

しかし、ロニーを侮るなかれ!というかいくら年齢を重ねても、彼の声帯は衰えてはいなかったのだし、逆にチューンナップが施されていたのは間違いない。

あれだけヘヴィなミュージックに打ち負けることなく、いな逆に引っ張っていく観があったロニーには、そういうヘヴィーなミュージックこそが、一番魅力を引き出す結果になっていたのに気づいていなかったのだ。

メランコリックさはないが、この上なく重低音が響き渡る。

ミドルテンポではあれど、曲を牽引するロニーの声とギターの重低音が後々まで耳朶に離れないのだ。

いやあれだけのヘヴィなミュージックでなければ、ロニーの声を活かすことなどできなかったのだ。

それゆえに、モダンヘヴィを取り入れたSTRANGE HIGHWAYSANGRY MACHINESこそが、DIO史上最高の出来と正直思える。



ANGRY MACHINES


虚心坦懐に、デビューから3つのアルバムを聴いても、ほとんど感動らしきものを喚び起こさなかったのだ私は。

確かに、これらのようなセールをSTRANGE HIGHWAYSANGRY MACHINESは挙げてはいない。

しかし、いろんな要素が絡み合って、セールは達成するのだ。

デビューしたての頃合いやタイミング、その大きなセールを挙げれた当時の社会的な背景、それから何年を経ていたか、そのアーティストに期待していたファンの音楽イメージ等々、こういったものが重なってセールは達成するのだ。

デビューから長い年月が経っていては、アルバムは当然売れなくなっていく需要逓減の法則も当然働いていたことも見逃せない。

要するに、セールが小さい結果に終わった=よくない出来、という断定は避けなくてはならない、ということだ。

私は、虚心坦懐に、STRANGE HIGHWAYSANGRY MACHINESを聴くことをお勧めする。 DIO史上最高のアルバムという意見が信じれなくても、その意味するところは理解してもらえると思う。

それほど勧めたい素晴らしい出来だったにもかかわらず、これらのアルバムを発表後に、トレーシーはこのバンドを脱退してしまう。

そして、クレイグ.ゴールディが再加入してMAGICAが作られた。

しかし、このアルバムでまた初期のヘヴィさ加減に戻してしまい、ロニー.ディオの魅力を減退させる結果になってしまったのだった。

次のKILLING THE DRAGONも同じような出来だった。

それゆえに、この2つヤフオクで売ることになった。

そして『STRANGE HIGHWAYS』や『ANGRY MACHINES』への郷愁を感じていたが、2007年に旧BLACK SABBATHの盟友たちとHEAVEN AND HELLを結成して、ライヴアルバムとDVDを発売の後、ニューアルバムを発表してツアーに出るも、ロニー胃がんのために2010年に逝去してしまった。

この時の無念さは忘れない。

しかし、その逝去後に、DIO時代のライヴモノが次々に発売される運びになった。

元々、ロニーはプロフェッショナル意識が高く、ライヴの出来は素晴らしいのひとことに尽きる!



ヘヴィな音楽に負けない強靭な声帯を維持し、キーはアルバム通りに歌う、フェイクは一切しない。

そんなアティチュードゆえに、色んな諸外国TVで彼のライヴが放映されて、その映像が日本ブート屋でコピーされ売られることになった。


かなりの量ゆえに、それを全部集めるだけでも大変だ。

それのみか、一度出たライヴモノも、年月が経ったらジャケットを替えて再発売もされていたから驚きであり、尊崇せざるを得ないシンガーと改めて思うのだ。

DIOは、1998年に『ANGRY MACHINES』発表後のライヴを収めたCDであるLAST IN LIVEを発表するが、これは廃盤になってしまっている。

しかし、『STRANGE HIGHWAYS』発表後のライヴを収めたMILWAUKEE 94』2022年に出したのだ。

STRANGE HIGHWAYS』発表後のライヴはすでにLIVE AT HAMMERSMITH APPOLOという題名で出ているが、これは2弾目になる。


・そのブルーレイがこれ!
     ↓


Dio: Live In London Hammersmith Apollo 1993


同じ年のライヴモノを2枚も出すとは…これだけでディオのシンガーとしての素晴らしさがわかろうというもの。

DEF LEPPARDは『HYSTERIA』の完全再現のライヴ映像を3つも出した。

それに次ぐ偉業といってもいいだろう。

ディオのライヴの素晴らしさは保証する。

しかも、彼の魅力を最大限に引き出したアルバム発表後のライヴモノとなれば、勧めないわけにはいかないだろう。

グランジMETALLICAの『METALLICA』が引きおこした音楽ムーヴメントだが、それによってオリジナルBLACK SABBATHの再結成を果たすことに貢献し、ひいてはDIOの最大傑作と呼べる作品を出すことにつながったのだった。


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      METALLICA



そう考えると、オリジナルBLACK SABBATHにしろ、DIOにしろ、METALLICAに感謝しなくてはならないだろうことは間違いない。

ロニー.ディオの魅力を最大限引き出したアルバム発表後というニュアンスもあるし、DIO史上最高のアルバムを発表した後という二重の意味で、祝いの言葉をかけたいライヴアルバム、それがMILWAUKEE 94』だ。

これまでの私の意見を汲めるHMファンにとっては、このMILWAUKEE 94』はかなりの程度お勧めだ。

2枚組だが、リーズナブルな値段で売られているから、そこもお勧めだ。



●以下のサイトでも取り扱っています。
  ↓

タワーレコード


【HMV】ローチケHMV|音楽CD・DVD


今回はこれにて終了します。

ありがとうございました。

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